プラスチックごみ問題と対策法を東大生が解説!【生分解性】
ヤゴコロ研究所に訪問いただきありがとうございます。東大生ブロガーの西片(@nskt_yagokoro)です
最近、レジ袋が有料になったり、プラごみに関するニュースが度々取り上げられたり、プラスチック関連の話題が尽きないですよね
今回は、プラごみ問題とその解決策として注目されている生分解性プラスチックの現状について書いていこうと思います
【最終更新:2021年7月15日 公開:2020年11月22日】
プラスチックを取り巻く状況
1907年にベークランドが初の合成高分子プラスチックを発明して以来、プラスチックは急速に私たちの生活に浸透していきました
1950年代には200万トンだった生産量が、2015年には4億トンを突破。今なお、その生産量は増え続けています(※1)
現在、プラスチックが急速に広まった背景には以下のような理由があります
- 加工しやすい
- 安価
- 安定性が高い
3つ目の「安定性が高い」というのは簡単にいうと「分解されにくい」ということ。例えば、生ゴミを放置すると腐っていきますよね。こういう物質は安定性が低いと言えます。一方、通常のプラスチックは土に埋めても、日光に晒しても簡単には分解されません
「外にペットボトル置いてたら溶けて中身が出てきた」なんてことになったら大変ですよね。ですから、プラスチックの「分解されにくい」という性質には大きな利点があるわけです
「加工しやすい」「安い」「安定」の三拍子揃ったプラスチック。材料としては完全無欠のように思えます
しかし、状況によっては「安定」という性質があだとなってしまうのです
それが、昨今問題になっている「プラスチックごみ問題」です。安定性が高すぎるが故、一度捨てると分解されることなく、そのまま留まり続けます
こうして分解されないプラスチックごみが溜まり続け、回収できないくらい増えてしまうというのが「プラごみ問題」です
本来は日本のように行政がきちんと回収すれば問題ないのですが、そうはいかない国もたくさんあります
では、どうすればプラごみ問題を解決できるか。ここで登場するのが「生分解性プラスチック」です
生分解性プラスチックとは?
通常、生分解性プラスチックとは以下の特徴を併せ持つプラスチックを指します
- 自然界で水と二酸化炭素まで分解される
- 通常のプラスチックと同等の耐久性をもつ
- 分解速度が比較的速い
一般に「分解」には、「化学的なもの」と「物理的なもの」の2種類があります。化学的分解の代表例としては加水分解が挙げられます。一方、物理的分解は主に機械的な粉砕を指します(ハサミで切ったり、ハンマーで砕いたりする感じです)
従来のプラスチックも物理的分解によって小さくはなるのですが、化学的にはプラスチックのままなので、自然界に留まり続けます(小さく砕かれたプラスチックをマイクロプラスチックといいます)
そのため、生分解性という場合には「化学的作用によりH2OとCO2に変わる」という認識を持っておくといいでしょう
誤解されやすいのですが、「生分解性=植物由来」ではないです。例えば、PVAは石油由来のプラスチックですが、自然界で化学的分解が可能なので生分解性プラスチックに分類されます。
反対に植物由来のバイオPEは微生物による分解が困難で、生分解性とは言えません
植物由来のものは「バイオマスプラスチック」と呼ばれ、生分解性の低いものも含むということに留意してください
生分解性プラスチックの種類・代表例
生分解性プラスチックの中で最も有名なのは「ポリ乳酸」だと思います。名前くらいは知っているという方も多いのではないでしょうか(おそらく、いくつかの教科書に採用されたことが原因かと思われます。僕が小中学生の時に使っていた教科書には書いてありました)
ポリ乳酸のほかにも色んな生分解性プラスチックがあります。国内で展開されているプラスチックは以下の通りです(※2)
- ポリ乳酸(PLA)
- ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)
- ポリ乳酸/ポリカプロラクトン共重合体
- ポリグリコール酸(PGA)
- ポリ乳酸/ポリエーテル共重合体
- ブタンジオール/長鎖ジカルボン酸共重合体
- ポリブチレンアジペート/テレフタレート(PBAT)
- ポリテトラメチレンアジペート・コ・テレフタレート
- ポリエチレンテレフタレートサクシネート(PETS)
- ポリブチレンサクシネート(PBS)
- ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)
- ポリビニルアルコール(PVA)
- ポリヒドロキシ酪酸(PHBH)
上で挙げた生分解性プラスチックは様々な観点から分類可能です
例えば、分解の条件。
分解に必要な条件には「高温多湿下」「土壌環境」「水環境」などがあります。上で挙げたPLAは高温多湿な条件下では分解されますが、土に埋めても水に浸しても分解されにくいです。一方PHBHは3つの全ての状況下で分解可能です
また、分解にかかる時間も種類によってバラバラです。
使ったらすぐ廃棄するもの(ストローなどの消耗品)は分解までの時間が短いことが望ましいです。一方、1年周期で取り替える製品(農業用のマルチフィルム等)には、ある程度長い期間分解されないプラスチックを用いる必要があります
生分解性が必要な用途と実例
実は、何でもかんでも生分解性プラスチックに置き換えようというのは得策とはいえません
というのも、一般に生分解性プラスチックが耐久性が低いからです
高い耐久性が要求されるものは生分解性プラスチックで実現するのは困難なので、現時点では回収してリサイクルするのが最善だと思います
また、生分解性プラスチックは全て熱可塑性(熱に弱い)なので、耐熱手袋などに使用されるケブラー等の熱に強い既存のプラスチックを生分解性プラスチックで置き換えるのは難しいと思います(※2)
では、生分解性プラスチックが活躍できるのはどんな場面なのでしょうか
生分解性が求められる用途には以下のようなものがあります
- 回収が難しいもの(釣り糸、漁網など)
- 回収に手間・費用のかかるもの(農業用マルチフィルムなど)
- 健康に関わるもの(手術糸など)
- 環境への負荷が大きいもの(プラスチック製の袋など)
つまり「回収困難なもののうち、回収できないことによる影響が大きいもの」は生分解性プラスチェックを使うのが理想といえます
生分解性プラスチックの今後
生分解性プラスチックをさらに普及させるには「耐久性を高めつつ、分解性を上げる」という一見すると矛盾していることを成し遂げる必要があります。
このような材料を開発するには「普段の使用環境下では丈夫だが、海水に浸すと分解されやすくなる」というように、きっかけを与えてやることで分解性が上がる物質を作るのが良いと個人的には思います
具体的には「太陽光や海水に含まれる塩化物イオン等がトリガーとなって分解性が上がる」といったことができれば、通常の環境では丈夫で海に捨てた時だけ分解する材料ができるはずです(開発するのは難しそうですが…)
まとめ
簡単にまとめると以下のようになります
- 安価で便利なプラスチックは世界中で使われているが、良くも悪くも安定なため、ごみ問題が深刻化
- 自然界で分解可能な生分解性プラスチックが注目されている
- 種類によって分解性も機能も様々。用途によって使い分けることが重要
生分解性プラスチック普及の鍵となるのは、やはり利便性です。更なる研究を通して従来のものより高機能な材料を開発する必要があります(研究者の皆様、応援しています!)
「プラスチック」に関する豆知識
ペットボトルの原料として有名なPET(ポリエチレンテレフタレート)は土に埋めても分解しにくい安定なプラスチック。
そんな”非生分解性”のPETですが、2016年に発表された論文(※3)によると、ある種の微生物により分解されることが明らかになったのです。
さらに驚くべきことに、その微生物は大阪府堺市で採取された試料から見つかったとのこと。
PETを食べる微生物が日本にいたなんてビックリですよね。この微生物は堺市に因んで「イデオネラ・サカイエンシス」と名付けられたそうです
以上、東大生ブロガーの西片(@nskt_yagokoro)でした!
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