【帯電列】冬に静電気が発生しやすい理由と帯電しやすい素材【身近な科学】
こんにちは、東大生ブロガーの西片(@nskt_yagokoro)です
暖冬だった去年と比べて今年の冬は寒いですね。スキーが好きな僕としてはありがたいですが、雪片付けが少し面倒です
今回は「西方と学ぶ身近な科学」シリーズ第一弾として、冬に発生しやすい「静電気」について考えていこうと思います(第二弾があるかは分かりませんが…)
【最終更新:2021年3月2日 公開:2020年12月11日】
静電気が発生する原因
一般的に物体はプラスとマイナスの電気を持っています
通常はプラスの量とマイナスの量が同じくらいなので、静電気を帯びていません
しかし物体が擦れ合うと電子が移動し、物質内部の電気のバランスが崩れます。
電子はマイナスの電気を持っているので、電子を失った物質はプラスの方が多くなってプラスに帯電。電子を受け取った物質はマイナスの方が多くなるのでマイナスに帯電します
このようにして静電気(static electricity)が発生するのです
以上の説明から分かるように、擦れ合う面積が大きいほど、また擦れ合う時間が長いほど静電気は溜まりやすくなります
服の素材にもよりますが低湿度環境下では少し体を動かすだけで数千〜数万V(ボルト)の静電気が発生するそうです
電圧の大きいと言われるリチウムイオン電池ですら3.7V程度なので、静電気がいかに高電圧かお分かりいただけると思います
1000V程度の静電気であれば痛みを感じることはありませんが、3000V程度で針に刺されたような痛みを感じるようになります。12000Vほどの高電圧になると手のひら全体を強打するような衝撃を受けるそうです(※1)
なぜ冬に発生しやすい?
冬に静電気が起こりやすいというのは周知の事実かと思いますが、理由を知っているという方は意外と少ないのではないでしょうか
その理由とは「空気が乾燥しているから」
夏場のように湿度が高い場合、静電気が溜まったとしても、空気中の水分を通じて外に逃げてしまいます
一方、冬は空気中の水分が少なく静電気の逃げ場がないため、衣服や体内に電気が留まり続けるのです
つまり冬でも加湿器を使うなどして空気中の水分量を増やしてやることで、静電気の発生を減らすことができます
なお、こちらの花王のホームページによると、湿度を60%程度まで上げておくと静電気対策に効果的なんだそうです
帯電しやすい素材
先程、物体が擦れあって静電気が発生すると説明しましたが、同じ物質を擦れ合わせても基本的には静電気は発生しません
これは電子との親和性が等しいために電子をあげたり貰ったりして結局プラマイ0になるからです
そのため静電気を起こすには異なる2種類の物質を擦り合わせる必要があります。
擦り合わせる時、どちらがプラスになりやすいか(マイナスになりやすいか)には大まかな決まりがあります。
下の図で左側に行くほどプラスになりやすく、右側に行くほどマイナスになりやすいと言われています
ちなみにこの並びのことを帯電列(Triboelectric series)と呼びます。
帯電列での距離が離れている組み合わせほど電圧が大きくなりやすく、近い物質どうしだと静電気が発生しなかったり、プラスとマイナスの関係が逆転したりします
例えば木綿とゴムを擦り合わせると、木綿がプラスにゴムがマイナスに帯電しますが、ガラスとポリエチレンを擦り合わせた時のほうがより高い電圧になるといった具合です
なお、下敷きを頭に擦りつけて髪の毛を立たせる遊びをやったことのある人は多いと思いますが、あれは下敷き(主にポリ塩化ビニル)がマイナスに帯電しやすく、髪の毛がプラスに帯電しやすいために起こります
こんな感じで帯電列さえあれば静電気を起こしやすい組み合わせが大体分かるので便利です
ただし帯電列は完全なものではなく、計測条件によっては順番が多少入れ替わる場合もあります。
化学を使って説明してみる
ただ帯電列を見ているだけでは物足りないと思うので、化学的な観点から少し解説します
まず、帯電列の真ん中付近を注目してください。鉄や銅、アルミニウムなど金属が多いことが分かります
金属は電気伝導性が高いため、帯電してもすぐに電気が流れてしまうので帯電しにくく、その結果帯電列の真ん中付近に来ます
ちなみに金属どうしで比べると、電子を引き抜くのに必要なエネルギーを表す「仕事関数」という数値が大きいほど右側に位置する傾向があります(順番が逆転している部分もありますが…)
金属 | 仕事関数[eV] |
亜鉛(多結晶) | 3.63 |
アルミニウム(100) | 4.20 |
鉛(多結晶) | 4.25 |
銀(100) | 4.64 |
鉄(100) | 4.67 |
ニッケル(100) | 5.22 |
金(100) | 5.47 |
※カッコ内は測定面。参考:http://ebw.eng-book.com/pdfs/ec3d8c28559105d5ec9c07b36905f56f.pdf
反対に帯電列の両端に位置する物質は電気を流しにくい「絶縁体(不導体)」となっています
絶縁体(不導体)のうち、電子を受け取りやすい物質はマイナスに帯電しやすいため右側に、電気を手離しやすい物質はプラスに帯電しやすいため左側に位置することになります
例えば、同じプラスチックでも、極性基を持たないポリエチレンよりも電気陰性度の大きなフッ素を含むテフロンのほうがマイナスに帯電しやすいので右側に来てます
また、アミド結合を持つ分子はプラス側に位置する場合が多く、実際に髪の毛やナイロン、羊毛などアミド結合を有する物質が帯電列の左側に位置しています
プラス側に生物由来の素材が多いのは、生体内のタンパク質を構成するアミノ酸にアミド結合が含まれるからと説明できそうです
このように化学的に見ればある程度の説明がつきますが、実際には物質中の水分量や表面の構造なども考慮する必要があり、帯電列を完璧に説明するのは難しいと思われます(僕が勉強不足なだけかもしれませんが…)
「静電気」に関する豆知識
最後に静電気にまつわる豆知識を一つ紹介。
摩擦による静電気が最初に発見されたのは、琥珀を羊皮で擦った時と言われていて、紀元前600年頃には既に古代ギリシアの哲学者タレスによる記述があります
このことから、琥珀を表すギリシア語elektonが、「電子」を表す英単語electron、「電気」を表すelectricityなどの語源になっています。
まぁ帯電列を見る限り琥珀では大した電圧にはならなそうですが、当時知られていた物質の中ではマイナスになりやすいほうだったのかもしれません(マイナス側には自然由来の物質が少ないので)
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参考文献・画像等の出典
※1 キーエンス 静電気ドクター『静電気の性質・大きさ』:
『様々な物質の仕事関数』:
※化学式の画像はウィキペディアより
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