【電解水】食塩水から消毒液が作れる理由と次亜塩素酸水の効果・安全性
ヤゴコロ研究所に訪問いただきありがとうございます。東大生ブロガーの西片(@nskt_yagokoro)です
先日、Panasonicから「食塩水から除菌液を作れる装置」が発表されて話題になりましたよね(公式サイト)
しかし「ただの食塩水が除菌液になるなんて変じゃない?」と思った方も多いはず
そこで今回は食塩水から作られる除菌液「電解水」の解説をしていこうと思います
※本記事は電解水や次亜塩素酸の基礎知識について解説したものであり、新型コロナウイルスへの有効性に焦点を当てて解説したものではありません。予めご了承ください
【最終更新:2021年3月2日 公開:2021年2月27日】
電解水とは?
電解水とは「食塩水などの水溶液を電気分解することで作られる水溶液」のこと
水素イオン濃度[H+]の大小によって「酸性電解水」と「アルカリ電解水」に大別されます
pHが7(中性)より低いもの、つまり水素イオン濃度[H+]が水酸化物イオン[OH-]よりも大きいものが「酸性電解水」です
後述するように、酸性電解水は次亜塩素酸を主成分とする液体で、高い殺菌作用があることから消毒目的で使われます
一方、電解水のうち水酸化物イオン[OH-]が水素イオン濃度[H+]よりも大きいものは「アルカリ電解水」と呼ばれます
タンパク質や油脂を分解することから、掃除用として使われることが多いです
酸性電解水とアルカリ電解水は1つの生成器から同時に作られます。陽極(プラス)から発生する水素イオンH+の多い水溶液が酸性電解水、陰極(マイナス)から発生する水酸化物イオンOH–が多い水溶液というわけです
なお、食塩水以外の溶液を原料として電解水を作る場合もありますが、本記事では食塩水を電気分解して得られる溶液のみを扱っていきます
電解水の生成・化学反応式
電解水は主に食塩水(塩化ナトリウム水溶液・NaCl aq)を電気分解することで作られます
単なる食塩水が除菌液や洗浄液に変わる過程を見ていきましょう
陽極・陰極で起こる化学反応は以下の通りです
陽極:2Cl– → Cl2 + 2e–
陰極:2H2O + 2e– → H2 + 2OH–
それぞれの電極で起こる反応を詳しく解説していきます
陽極での反応
まず陽極、つまり電池のプラス側に接続されている電極での反応を見ていきましょう
陽極:2Cl– → Cl2 + 2e–
食塩NaClが溶けてできた塩化物イオンCl–が酸化されて塩素Cl2が発生しています
「Cl–の電子e–が電極のプラスに引き剥がされる」と考えると分かりやすいと思います
さらに、発生したCl2が水に溶けることで、かの有名な次亜塩素酸HClOと塩化水素HClが発生します
Cl2 + H2O ⇄ HClO + HCl
HClOやHClは酸性を示すため、陽極で生成される電解水のことを酸性電解水と呼ぶのです
後から詳しく説明しますが、次亜塩素酸には除菌効果があるので、酸性電解水は消毒液としてよく用いられます
陰極での反応
続いて陰極(電池のマイナス側に接続されている電極)で起こる反応を見ていきましょう
陰極:2H2O + 2e– → H2 + 2OH–
陰極では水H2Oが電池から電子e–を受け取る(還元)ことで、水素H2と水酸化物イオンOH–が発生します
OH–が生成されることから分かるように、陰極で得られる溶液はアルカリ性(塩基性)です。水素イオン濃度が低いため「アルカリ電解水」に分類されます
皆さん知っての通り、酸性の物質とアルカリ性の物質は反応しやすいため、アルカリ電解水は酸性の油汚れ等を落とすのに効果的です
ちなみに、重曹(炭酸水素ナトリウム・NaHCO3)がお掃除で大活躍するのも同様の理由で、アルカリ性の重曹が酸性の汚れと反応することで綺麗になります
次亜塩素酸の効果・用途・安全性
「陽極では除菌用の酸性電解水が、陰極ではのアルカリ電解水が生成される」ということが分かっていただけたと思います
先述したように酸性電解水の主成分は次亜塩素酸HClOですが、次亜塩素酸の効能については誤解されている点も多いように感じられます
ここでは次亜塩素酸に関する基礎知識を紹介していきます
次亜塩素酸は他の物質から電子e–を奪う働きすなわち酸化作用が強く、この性質が強い除菌力の源になっています
HClO + H+ + 2e– ⇄ Cl– + H2O
濃度によっても異なりますが、医療機器などの機械類の洗浄に使われたり、殺菌目的で食品添加物として用いられる場合もあります
製品評価技術基盤機構と経済産業省の検証によると、一定の条件下で新型コロナウイルスへの有効性が確認されたのことです。詳しくはこちらのページをご覧ください
なお、次亜塩素酸は分解されやすく長期間の保存が難しいことから、使用する分をその場で生成して使用する場合が多いそうです
除菌に有効な次亜塩素酸水ですが、吸引すると人体に悪影響を及ぼす可能性があるので「加湿器に入れて空間除菌する」といった使い方は控えてください(参考:厚生労働省)
また、高濃度の次亜塩素酸水が人体に触れると皮膚が荒れる場合があります。皮膚の弱い方は取り扱いに気をつけてください
次亜塩素酸ナトリウムとは別物
名前が似ている物質に「次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)」がありますが、次亜塩素酸とは別物です
次亜塩素酸水が酸性の溶液なのに対し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液はアルカリ性(塩基性)の溶液で、塩素系漂白剤などの主成分として用いられています
NaOCl + H2O ⇄ HOCl + NaOH
両者ともに除菌効果がありますが性質が異なっており、用途や人体への影響も当然違います。
これらを含む製品を使用する場合には、記載されている用法を守って使うようにしましょう
まとめと豆知識
今回は電解水と次亜塩素酸について解説しました
- 電解水とは「食塩水などの水溶液を電気分解することで作られる水溶液」のこと
- 陽極で発生する酸性電解水の主成分は次亜塩素酸で除菌に使用される
- 陰極で発生するアルカリ電解水は洗浄に使われる
「電気分解」に関する豆知識
先程説明したように、電気分解において酸化反応が起こる電極を「陽極」、還元反応が起こる電極を「陰極」と言います
一方、電池の場合は、酸化反応が起こる電極が「負極」、還元反応が起こる電極が「正極」となり、電気分解の時と正負が逆になります
そこで混乱を避けるため、酸化反応が起こる電極をアノード(anode)、還元反応を起こる電極をカソード(cathode)と呼ぶ場合があります
参考資料
経済産業省『「次亜塩素酸水」の使い方・販売方法等について(製造・販売事業者の皆さまへ)』:
https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200626013/20200626013-5.pdf
厚生労働省『新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)』:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html