電子ペーパーの原理と特徴、メリット・デメリット、応用例
ヤゴコロ研究所に訪問いただきありがとうございます。東大生ブロガーの西片(@nskt_yagokoro)です
最近は教育のオンライン化が急速に進んでいて教科書の電子化も検討されています
一方で長時間ディスプレイを見続けることによる健康被害が懸念されているのも事実です
そこで今回は近い将来電子教科書に採用されるかもしれない「電子ペーパー」について解説していこうと思います
電子ペーパー・E Inkのまとめ記事↓
電子ペーパーとは?概要と表示原理
電子ペーパーとは、紙のメリットとされる「軽くて薄い」「文字が読みやすい」「電気不要で表示できる」といった機能を兼ね備えた電子媒体のうち、表示内容を書き換えられるものをいいます
最近はAmazon kindleや楽天koboなど電子ペーパー(E Ink)を搭載した電子書籍リーダーも普及してきているので見たことある方も多いのではないでしょうか
電子ペーパーには様々な種類がありますが、基本的な仕組みは共通しています
ここでは代表例として1970年代に米国ゼロックス社で開発された世界最初の電子ペーパー・Gyriconの仕組みを説明したいと思います
Gyriconには静電気を帯びた微小な球が多数埋め込まれていて、それぞれの球は片面が黒、もう一方が白に塗られています(↓こんな感じです)
これに電圧をかけると静電気力により微小球がぐるっと回転。すると上から見た時の色が白から黒へ(または黒から白へ)変わります
こうして球の上側の色を制御することで表示する内容を変化させるというわけです
電子ペーパーの種類
世界初の電子ペーパー・Gyriconは色のついた球を回転させるだけという割と単純な原理でしたが、性能を上げるには画素数を上げたり書き換えのスピードを速くしたりする必要があり、動作原理を工夫しなくてはなりません
現在開発されている電子ペーパーの方式とその原理について詳しく見ていきましょう
電気泳動方式
現在、最も主流なのがE Ink社が初めて商用化した「電気泳動方式」
Gyriconでは静電気を帯びた球を使用しましたが、電気泳動方式では小さなカプセルを使用します
このカプセルの中には、透明な液体、プラスに帯電した黒い顔料、マイナスに帯電した白い顔料が入っています
カプセルの下側にプラスの電圧をかけると、白い顔料(マイナス)は下に、黒い顔料(プラス)は上に移動します。
これにより上から見た時に黒く見えるってわけです。白に表示したい場合は下からマイナスの電圧をかけます
電圧により顔料が泳いで移動することから電気泳動方式と呼ばれているわけですね
なお、白と黒以外の色を表示したいときは、カプセルの上に色のついたフィルターを載せます(↑)
ちなみに、顔料の種類を増やして様々な色を表現する「アドバンスドカラー電子ペーパー」というものも開発されています。こちらはカラーフィルターなしで多くの色を表示できます
QR-LPD方式(電子粉流体方式)
電気泳動方式では液体の中で粒子(顔料)を移動させましたが、QR-LPD方式(電子粉流体方式)では空気中で移動させます
空気は液体に比べて抵抗が少ないので、電気泳動方式よりも応答が速いのが特徴です
エレクトロウェッティング方式
エレクトロウェッティング方式は、電圧をかけると疎水性から親水性に変わる化合物を使用する方式です
小さい容器の底に白い背面材、透明な電極、疎水性から親水性に変わる化合物が敷かれています。この容器の中には水と着色した油が注入されています
電気がかかっていない時、化合物は疎水性、つまり水をはじいて油となじむので、材料表面は油に覆われています。水は透明なので上から見ると油の色が見えます
これに電圧を加えると化合物が親水性になるため、水が油を押しのけて化合物表面に広がります
すると底の背面材が透けて見えるので上から見ると白く見えるのです
このエレクトロウェッティング方式には、画面の切り替えが滑らかという利点がある一方で、通電していないと表示内容を保持できないという欠点もあります
コレステリック液晶方式
液晶ディスプレイでおなじみの液晶を使う「コレステリック液晶方式」なんてのもあります
液晶とは電圧の有無により向きや並びが変わる材料のこと。
縦に並んでいる時は光を反射するため色がついて見えますが、横向きの時は光を透過するので液晶は透明になります(つまり底が見えます)
縦向きの際に反射する色は液晶の種類によって違うので複数の液晶を組み合わせて様々な色を表示できます
電子ペーパーには他にも違う方法で表示させるものもありますが、「電気で物質を動かして見える色を変える」という仕組みは同じです
電子ペーパーのメリット
続いて、電子ペーパーを従来のディスプレイや紙と比較した時のメリット・デメリットを紹介していこうと思います
書き換え可能
電子ペーパーは普通の紙のような見た目をしていますが、スマホのディスプレイのように表示する内容を書き換えることができます
つまり電子ペーパー1枚で無限に表示できるので、表示する内容が増えても持ち運ぶ電子ペーパーを増やす必要はありません
例えば出先で多くの本を読みたい場合、紙の書籍だと持ち運びが困難ですが、電子ペーパーなら1枚持ち歩くだけで済みます(本好きにはたまりませんね)
電源を切っても消えない
スマホの場合、電源を切るとディスプレイが真っ黒になってしまいますが、電子ペーパーは電源を切っても表示内容が消えることはありません
そのため長時間同じ画面を見ていたい場合には、電気を全く消費することなくコンテンツを表示し続けることができます
※エレクトロウェッティング方式のように電源を切った状態で画面を保持できないものもあります
目が痛くなりづらい
有機ELが自ら発光するのに対し、E Inkは反射光が目に届いてみえるという仕組みになっています。
つまり「目に見える原理」自体は普通の紙と一緒なので、まぶしさを感じることなく閲覧できるわけです
消費電力少ない(エコ
前項で説明したように、コンテンツ表示中の電力消費は0です
つまり画面を切り替える時以外はバッテリーを消費しないので、通常のディスプレイに比べて圧倒的に省電力です
書き換えの際の消費電力も少ないため、頻繁に書き換える場合でも十分に省消費電力となっています
この特性を活かして、近年は照明の光や振動、熱といった周囲のエネルギーだけで電子ペーパーを作動させる「エネルギーハーベスティング技術」の研究も進められています
参考:凸版印刷HP
屋外で見やすい
スマホを直射日光下で操作しようとしたら暗すぎて見づらかったという経験ありませんか?(僕が以前使っていた携帯は酷かったです)
これはディスプレイの光が太陽光の明るさに負けてしまうために起こります。
一方、電子ペーパーは先述したように外の光を反射させて表示するので、直射日光下でも難なく読めます(紙が屋外でも普通に読めるのと一緒です)
他にも「ガラスを使用しないので破損時の飛散がない」などのメリットがあります
↓オススメの電子ペーパー
デメリット
上では電子ペーパーのメリットを多数紹介しました。しかし世の中には完璧なものなんて存在せず、電子ペーパーも例に漏れずデメリットがあります
書き換えが遅い
現在市販されている電子ペーパーは書き換えが速いとはいえません
例えば電気泳動方式の場合、書き換えスピードは1秒間に1〜2回程度となっています
最新のスマホの中には毎秒120回を超えるリフレッシュレートの機種もあるくらいですから、スマホに慣れてしまった人からすればかなり遅く感じることでしょう
高価
ペーパーという名前ですが紙と比べるとかなり高価ですし、液晶ディスプレイと比べてもそんなにお得ではありません
大衆に受け入れられるようになるには更なる価格の低下が期待されます
カラー表示は発展途上
現在、電子ペーパーはモノクロが一般的で、多色表示可能な電子ペーパーはまだ発展途上です
2020年にはカラー対応の電子ペーパーを搭載した電子書籍リーダーも発売されましたが、液晶ディスプレイや有機ELには肩を並べるには至っていないのが現状です(十分キレイではありますけどね…)
カラー電子ペーパーについては以下の記事に詳しくまとめてあります
実用例・応用例
電子ペーパーには「書き換えが遅い」という大きなデメリットがありますが、頻繁に書き換えない用途に関しては既に広く採用されています
ここでは代表的な応用例を紹介したいと思います
電子書籍リーダー・電子楽譜
電子ペーパーの応用例として最も有名なのはやはり「電子書籍リーダー」でしょう
僕も電子ペーパー搭載の電子書籍リーダーを持っているのですが、非常に電池持ちが良く、長時間読書していても目が疲れないので重宝しています
以前はバスを待っている時によく使っていました。紙と違って多少雨に濡れても大丈夫ですし、液晶ディスプレイと違って晴れの日も読みやすいので屋外での使用に最適です
中には「電子ペーパーは外部の光を反射させて表示するから暗い場所では使えないのでは?」と思う方もいると思いますが、夜間の使用を考慮したバックライト付きの製品も売られています
冒頭で登場したAmazon Kindleや楽天koboなんかが有名です↓
電子ポスター・電子広告・電子バス停・時刻表
書き換え時以外には電気を消費しないことから、長時間同じ画面を表示させる用途に使われることがあります
最近だと、バス停や駅での設置が増えてきているようです
電子ノート・メモ帳・楽譜
目に優しく視認性が良いことから、学習用の電子ノートや楽譜として採用されることもあります
オススメの電子ノートについては以下の記事にまとめてあるので興味のある方はご覧ください
他にも「柄の変えられる時計」や「ノートPCの天板」などに採用されています
まとめ
今回はE Inkに代表される「電子ペーパー」について詳しく解説してみました
まだ開発途上ということもあり課題も多いですが、近年は急速に進歩してきているので今後に期待です
個人的には紙、液晶(または有機EL)、電子ペーパーが各々の利点を活かせるように使い分けするのがいいと思います
【それぞれの特徴】
- 紙:複数並べられる
- 液晶(または有機EL):動作がなめらか、色が鮮明
- 電子ペーパー:紙の利点を活かしつつ画面の切り替え可能
特に「目が疲れやすい」「屋外で閲覧したい」という方には電子ペーパーがオススメです
本ブログでは電子ペーパー搭載のタブレット、電子書籍リーダー、PCモニターについて扱っているので、興味のある方はご覧ください
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