【式の導出も】霜柱ができるメカニズムと毛細管現象【表面張力】
あけましておめでとうございます。東大生ブロガーの西片(@nskt_yagokoro)です
昨年に引き続き週1ペースで投稿していくつもりですので、今年もよろしくお願いします
今回は「身近な科学」第3弾として冬の風物詩「霜柱」の科学について語っていこうと思います
身近な科学シリーズの過去記事はこちら
【最終更新:2021年3月2日 公開:2021年1月2日】
霜柱ができる原理
皆さん、霜柱というものを知っていますか
霜柱とは冬によく見られる自然現象で、針状の氷が集まって柱のようになったもの。英語ではneedle iceといいます
以下のステップで霜柱は出来上がります
- 土壌中の水分が毛細管現象によって土の表面近くまで上昇。
- 土の表面近くは土の奥深くより冷たいので、上がってきた水は氷へと変化
- 下から新たな水分が上がってきて氷を押し上げる
- 1~3を繰り返す
毛細管現象(capillary action)とは「水などの液体が細い管の中をひとりでに移動する現象」のこと
細いストローを水に挿した時、ストロー内部の水面がストローの外側の水面より高くなりますが、これも毛細管現象です
霜柱の例でいうと、土の粒子の間にできる細かい隙間が細い管の役割をすることで、毛細管現象が起こり、水分が上昇します
ちなみに、布の一部を水に浸した時に水が布全体に広がるのも、クワガタが口を動かすことなくゼリーを食べれるのも毛細管現象で説明できます(調べてみると面白いですよ)
濡れと毛細管現象
霜柱ができる理由は「毛細管現象で水が上がるから」と言いましたが、毛細管現象はなぜ起こるのでしょうか
毛細管現象を理解するためには「濡れ」について知っておく必要があります
「濡れ」とは「固体表面が液体と接触する現象」のこと
板の上に液体を垂らすと以下のようになります
このとき、液体面と固体面がなす角度(図のθ)を接触角といい、接触角が90°以下の状態を「濡れる」と呼びます
一方で撥水性の高い素材に水を垂らす場合には、下図のように接触角が90°を上回るので「濡れにくい」といえるわけです
つまり親和性の高い物質の組み合わせでは互いに濡れようとして接触角が小さくなり、親和性が低い組み合わせでは接触角が大きくなります
普段何気なく使っている「濡れる」という言葉は接触角θで定義できるってことですね
では、この考え方を使って毛細管現象について考えていきます
毛細管現象とは先述したように「液体に細い管を突き刺した時に、液体が管の中を上がったり下がったりする現象」のこと
ガラス管を水の中に突き刺すと、毛細管現象により水がガラス管の中を上っていき、ガラス管の外側よりも水面が高くなります
ここで重要なのが「水とガラスは濡れやすい」ということ
「ガラス管と水が濡れようとすることで、ガラス管と水が接している部分に上向きの力が働くため」毛細管現象が起こるのです
実際にガラスと水の境界を見てみると、接触角が90°以下になっていることが分かります
「濡れ」により水は上に移動しますが、どこまでも水面が上がっていくわけではなく、ある位置で上昇がストップします
水面が上がるにつれて管内の水にかかる重力が大きくなり、あるタイミングで上向きの力と等しくなるためです
なお、この上向きの力は「表面張力」と呼ばれています
表面張力の大きさの式
※この項は高校物理の内容を含みます。まだ学習していない方は高校物理の「力学」の単元を急いで勉強してください
濡れによって発生する表面張力と水の重力が釣り合って水面の上昇がストップすると述べましたが、どの位置で止まるのでしょう
水柱に働く垂直上向きの力と下向きの力の釣り合いを考えることで求めてみます
表面張力Tと重力の向きを図示すると以下のようになります
※表面張力は実際にはガラスの内側に沿って働いていますが見やすくするために一部のみを図示しました。また、表面張力は長さをかけることで力となる(後述)ので、図中のTの矢印はいわゆる力の矢印ではありません
表面張力は接触角θ方向に働きます
接触角θ[単位rad]は、水とガラス管の境界付近の三角形に盛り上がった部分の角度です(この盛り上がりをメニスカスといいます)
表面張力T[N/m]はガラス管と水の接触部分に働くので、半径r[m]のガラス管に働く表面張力の合計は(接触部分の長さ)×(表面張力)で求められて
$$2πrT$$
垂直方向からの角度がθであることから上向きの力は
$$2πrTcosθ$$
となります
ここで「表面張力Tは力なのに単位はNじゃなくてN/mなの?」という疑問を持つ人もいるかと思いますが、表面張力は接触部分のわずかな層でしか働かないため、単位長さあたりの大きさ[N/m]で表すのが一般的です
力の釣り合いを考える際には単位をNに統一する必要があるので長さ(2πr)をかけます
続いて下向きの力、すなわち重力を考えます
水の密度をρ[kg/m3]、重力加速度をg[m/s2]、水の高さをh[m]とすると
(下向きの力)=(水に働く重力)は(水の体積)×(水の密度)×(重力加速度)で求められるので
$$πr^2hρg$$
よって(上向きの力)=(下向きの力)より
$$2πrTcosθ=πr^2hρg$$
これを解くと高さhは
$$h=\frac{2Tcosθ}{rρg}$$
となります
なお、実際の実験では表面張力の大きさTが分からないので、水面の高さhと接触角θを測定し、上の式に代入することでTを求めます。
rは使用するガラス管の半径なので既知ですし、水の密度ρはほぼ1000kg/m3、重力加速度gは約9.8m/s2と分かっているので、Tが知りたい場合はhとθさえ測れば十分です
※表面張力の測定について更に詳しく知りたいという場合はこちらの説明(大阪大学が公開)が参考になると思います
水とガラス管以外の場合
重力と表面張力(×接触部分の長さ)の釣り合いを考えることでhを求めました
$$h=\frac{2Tcosθ}{rρg}$$
この式から、ガラス管の半径rが小さい、つまりガラス管が細いほどhが大きくなることが分かります(正確には「hの絶対値が大きくなる」ですね)
他にも接触角θがπ/2~πrad(90°〜180°)の時にhが0を下回ることが分かります
接触角が90°〜180°というのは濡れにくい物質で見られるもの
例えばガラス管と水銀は濡れにくいため、接触角が90°〜180°の範囲にあり、それによりガラス管を水銀に突き刺すと水銀の高さは下がります
液面の形も、水の時は凹でしたが、水銀では接触角が90°より大きいため凸となります
※「90°〜180°」は「90°より大きく180°より小さい角度」という意味で表記させていただきました
まとめ
今回の内容をまとめるとこんな感じです
- 霜柱は毛細管現象により、土壌中の水分が上に押し上げられ凍ったもの
- 毛細管現象による水の上昇は、細い管と水の「濡れ」により生じる
- 毛細管現象の実験により表面張力が求められる
- 表面張力と高さの関係式\(h=\frac{2Tcosθ}{rρg}\)から「上昇する高さhと管の細さrは反比例する」「濡れにくい物質(90°<θ<180°)では高さが下がる」等が分かる
ちょっと霜柱ができるメカニズムを書くつもりが結構長い記事になってしまいました(申し訳ないです)
他にも科学関連の記事を書いているので、よければご覧下さい
「身近な科学」シリーズの過去記事はこちら(理系向け)
「簡単解説!科学雑学」シリーズの過去記事はこちら
【yagocode0:eqqmp://vxdlhlol-ixy.zlj/zlab-fkqolarzqflk/】
参考文献・画像の出典
英語版Wikipedia『Needle ice』:
『表面張力』:
環境の大学『液体の性質』:
『表面張力・界面張力・接触角』: